財務省は、「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書で、改ざんがあったことを国会に報告しました。
これは単に役所がウソを文書にしていたというだけでなく、日本の統治システムをも揺るがす大問題です。
野党は、麻生財務大臣をはじめ関係者の責任追及に躍起となるでしょうが、ここは、責任追及よりも、国政調査権を発動して「第三者委員会」をつくり、真相解明を優先するべきです。
- ◆「昭恵夫人」記述削除
- ◆官庁の中の官庁
- ◆「仕事の文書化」が官僚文化
- ◆行政文書をもとに政策を議論する
- ◆行政文書は歴史的資料
- ◆佐川国税庁長官辞任会見
- ◆「第三者委員会」設置で真相解明を
- ◆まとめ
◆「昭恵夫人」記述削除
改ざんが行われたのは財務省近畿財務局が作成した、森友学園への国有地貸し付け契約や売却契約など計14件の決裁文書。
改ざん前の文書には、安倍首相の昭恵夫人に関する森友学園の籠池泰典前理事長の発言として、「昭恵夫人から『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた」との記述がありましたが、改ざん後にはきれいに削除されていました。
決裁文書の主な改ざん点
- 貸し付け処理は、特例的な内容
- 学園の提案に応じて鑑定評価を行い、価格提示を行うことにした。
- 安倍昭恵首相夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから前へ進めてください』とのお言葉をいただいたとの発言あり
改ざんされた時期は、森友学園への国有地売却で大幅な値引きが問題となり、辞任した佐川国税庁長官らが国会答弁に立っていた時期と重なります。麻生財務大臣は、「佐川の国会答弁に合わせて書き換えたのが事実だ」と言明しています。
◆官庁の中の官庁
財務省は、キャリア官僚のなかでもとりわけ優秀な人材がそろっていることは間違いありません。若手職員からベテランにいたるまで、まじめに職務に励み、憂国の志をもった人たちです。「官庁の中の官庁」と言われる所以です。
その意味で、文書の改ざんなどとは最も縁遠い存在だと見られていたのが財務省でした。 「財務省よ、お前もか」というのが偽らざる心境です。
南スーダンPKO日報問題では、当初、日報は破棄していたと説明がありましたが、実は存在していたことが明らかになりました。
裁量労働制に関するいい加減な調査データ問題でも、「原票はなくなった」と説明したのに、厚生労働省の倉庫から段ボール32個分の書類があっという間に見つかりました。
そして、財務省です。財務省でやっているのだから、他の省庁も推して知るべしとなっても不思議ではありません。
◆「仕事の文書化」が官僚文化
役所は総じて何でも文書に残しておきます。霞ヶ関の官庁、特に財務省はその傾向が強いです。
電話での問い合わせ、ちょっとした意見であっても必ず文書化され、関係職員の間で共有されます。外務省などでは、外国の要人との会見で、「訪日を歓迎します」という社交辞令までもが文書に残り、ご丁寧に㊙のはんこまで押されています。
ですから、当時の佐川財務省理財局長が、「記録はありません」と何度も答弁しているのを聞いて、「絶対ウソだ。文書化されてないはずがない」と思っていました。
仕事の文書化は、いわゆる「お役所仕事」と呼ばれる臨機応変さに欠ける仕事ぶりにつながる一方で、後の議論の重要参考資料となり、ひいては歴史の語り部となりうることでもあります。
◆行政文書をもとに政策を議論する
議会で政策の議論を行うとき、最も基本的な資料は行政文書となります。役所から提出された資料や記録をもとに、現状の確認を行ったり、過去との整合性を問うたりするのです。
過去の資料・記録を丹念に読み込み、問題点を洗い出し、議会で質問する。これこそが議員の腕の見せ所というわけです。
もちろん、それには大前提があります。行政から提示された資料・記録には、事実しか書かれていないことです。事実が書かれているかわからない状態となれば、もう、議会での議論は成り立ちません。議会が行政をチェックする土台が失われてしまいます。
これは、統治システム全般にかかわる由々しき問題です。
◆行政文書は歴史的資料
「聖徳太子は憲法17条を制定し、冠位十二階を定め、・・・。」この聖徳太子の実績は、なぜ歴史的事実なのでしょうか?なぜ、事実だと言えるのでしょうか?
それを記した行政文書が残されているからです。今現在、行われている事を文書に事実として残しておくことは、後々の検証作業の際に歴史的事実の根拠となるわけです。
もちろん、それには大前提があります。残された文書には事実しか書かれていないことです。事実が書かれているかわからない状態となれば、もう、歴史的事実の根拠たりえません。評価の対象から外れてしまいます。
あの時代の行政文書には事実は書かれていないとなったら、後の人たちは何で評価することになるのでしょうか?
◆佐川国税庁長官辞任会見
当時、財務省理財局長として答弁に立ち、その後、国税庁長官に出世した佐川宣寿氏は長官辞任の会見で述べた理由は、大きく3点です。
- 理財局長時代の国会対応に丁寧さを欠き、混乱を招いたこと
- 行政文書の管理状況について、様々な指摘を受けたこと
- 問題となっている決裁文書の担当局長だったこと
1は、「ある」ものを「ない」と言い続けたことを潔く認めていると理解すべきでしょうか。
「混乱を招いた」とありますが、野党は混乱を招こうとしたものの、佐川局長の答弁によって混乱にいたらず、結果、安倍政権を救う形となりました。その功により、国税庁長官に出世したのですが・・・。
2は、「管理状況」とは何を指すのでしょうか。麻生大臣は、理財局の一部の職員によって改ざんされたと言いました。「部下が勝手に改ざんできるような」「管理状況」だったことに非があったということでしょうか。
3は、担当局長として、改ざんを知っていたから、あるいは、改ざんを指示したからか、その肝心なところがよくわかりません。
そして、佐川氏は単なる辞任ではなく、懲戒処分が科せられています。麻生大臣によれば、辞任後も捜査・調査によってさらに重い処分をする可能性を残したと言います。
このことは、この先、何が出てきても、すべて佐川氏1人の責任で済まそうということなのでしょうか。
疑問が疑問を呼ぶ展開です。
◆「第三者委員会」設置で真相解明を
野党各党は幹事長・書記長が会談し、麻生大臣と安倍首相の責任追及で一致し、昭恵夫人や佐川前長官の証人喚問を求めていくとで合意したようです。
当然のことでしょう。昨年秋の総選挙から、明るい話題は何一つなかった野党陣営にとって、久しぶりの好機到来です。
余計なことかもしれませんが、これまでの野党の頑張りを評価したいと思います。「森友ばかりやってないで、他の大切な問題をやれ」と地元でもさんざん言われたに違いありません。そこをぐっと我慢して追求し続けてきたのが野党です。
今回の問題発覚は、第一義的には朝日新聞のスクープです。でも、野党が追及の手を緩めなかったから、ニュース価値がそれほど下がらず、朝日新聞の総力取材につながった経緯があります。野党と朝日新聞の意図せぬ連携プレーでした。
野党としてはまず、麻生財務大臣の首に狙いを定めるでしょう。そして、次は・・・。この流れは痛いほどよくわかります。でも、ちょっと待ちましょう。この状況なら、麻生大臣の首はいつでも取れます。その前にやるべきことがあります。
繰り返しますが、今回の一件は、まさに統治システムの根幹を揺るがしています。「官」「公」への信頼が失墜してしまいました。この状況の中で優先すべきことは、やはり、真相解明です。
ここは、国政調査権を発動して、国会に「第三者委員会」を設置し、国会議員や官僚ではない、純粋の第三者の専門家に手による調査・分析によって真相解明をするのです。「第三者委員会」の調査で、全部の膿を出しきってしまうことを優先すべきです。
真相解明がなったら、責任の所在は明らかになります。その時こそ、声高に責任追及をすればいいです。国民もそれなら納得するでしょう。
◆まとめ
当初、事実が文書に書かれていました。しかし、国会答弁でウソの発言をしているうち矛盾が生じ、事実を歪める文書改ざんがなされました。
発覚しなければ、ウソが事実として残ってしまうところでした。恐ろしいことです。「ウソも百回言えば真実になる」と誰かが言いましたが、危うくそうなるとこでした。
真相解明をはかるのに最も良い道は、政権交代です。本来、こういう大きな失態の際に政権が交代することを制度は発想しています。
しかし、現在の日本の政治状況では到底ムリ。ですから、「第三者委員会」の設置を、ベストではなくてベターなものとして提唱したわけです。
以上、『【森友文書改ざん】責任追求より、第三者委員会による真相解明を』でした。